筆者が奈良を訪れたのは、人生で2回。
初回は中学時代の修学旅行で、京都・奈良をベタに廻る旅程で、JR奈良駅に降り立った。
本当に、鹿がいた。しかも沢山。
想像以上の大規模な群れで、「こんなにもワイルドルッキングな生き物がこんな至近距離で生活する世界が、まだこの現代日本にあったのか」と衝撃を受けたものだった。
逆に言えば、「鹿」。そう、鹿の群れしかいなかったとも言える。
奈良駅の周囲は、山々が見渡せるほど低層の建物がぽつぽつとあるだけで(一応もう平成だった気がするが)、周囲には人の数よりも多い、鹿……。
ティッシュを出そうものなら、エサだと思い手に鼻を近づけてきた。
鹿リテラシー激低の筆者たちはうろたえ、最後は(なんだか鹿に悪い気がしながらも)ガチで怖がり全力で声をあげて逃げまどう始末だった。
しかし、なんでまたこんなに鹿がタウンに溢れているのか気になって、修学旅行の課題論文テーマには奈良の鹿の生態を題材に選んだ。(内容は忘れた)
人生で二度目の奈良は、30歳になったかならないかのとき、当時付き合っていた遠距離恋愛の彼氏に会うために訪れた。
筆者の当時の彼氏は、奈良県で内装工事の事業を営む家業を継いだ2代目社長で、遠距離恋愛の末、お酒のうえでの口論で別れを迎えた。そんな彼との恋愛中に、彼に会うために関西を訪れ、彼の地元である奈良駅に再び降り立った。
宵闇の奈良駅……。
鹿はチラホラと道に寝そべっていたが、明らかにかつて私たちを襲った大群より少なく、数が減っていたのを寂しく思った。
島田紳助が経営しているという焼肉屋の内装を手掛けたというので、奈良県にあるその店に行って焼肉を食べた。しかし、それ以外に奈良という土地で何かをした記憶はなく。
なぜか大阪で「社会勉強だ」と言って連れまわされた飛田新地(置屋街)の印象の方が強い。飛び飛びに建つ置屋の座敷に佇む、造花に囲まれ置屋のおかみに売り出されている“一億総浜崎あゆみ”のようなお嬢さんたちのことしか思い出せない。
■何が言いたいかというと、奈良って…
「奈良って、そういえば鹿以外の印象がないな」ってことです。
冷静に考えると、「三輪そうめん」「柿の葉寿司」などの名物も聞いたことがありますが……。
ですが「大阪、京都、神戸に比して、やはりメジャーなものはない」ということに異論がある方も、そう多くはないでしょう。
そんな状況を奈良県民の皆様もご認識されているとよく聞きますが、奈良名物を作るべく立ち上がった1人の名物カフェのマスターが産み出したのがこの『奈良 鹿ないカレー』なのです。
ルーをお皿によそった第一印象は、
「肉がデカい! リッチ~! っていうか、えっ、コレ、鹿なんだっけ?? えっ、えっ、ジビエ的な?」
と焦ってパッケージを確認するに、どうやら「鹿は入っていない」ようで、
奈良県産豚トロ肉使用、とあります。
食べた感触は、重さのあるカレールーというよりは、ハヤシルーのようにサラサラとしたスープ感のほうが強く、とはいえ、ハヤシっぽいトマト感ありありというよりは、カレー感がある。生クリームとかふわっと載せて、ホテルカレー風に楽しみたいお味です。開発者の意向としても、高級ホテルのカレーを目指したということ。
このカレーの生みの親は、奈良県大和郡山市にあるショットバー『Bar Sally』オーナー・新田さん。土日限定のランチメニューとして、2016年2月にスタートしたそう。
「こってりした味の濃いものが苦手」と、カレー嫌いを公言する新田さんが試行錯誤の末に生み出した、カレー好きもカレー嫌いもおいしく食べられる『サリーズ・カレー』は、5年ほど前から店の隠れた名物となり、県内のカレーコンテスト『奈良カレー1グランプリ2015』でも優勝を飾りました。
バーのお客さんでもあった食品卸売会社『泉屋』さんの「レトルトにしてみたら?」のアドバイスをきっかけに、クラウドファンディングを実施。あっさりと目標金額を達成し、開発・販売に漕ぎ着けたという実力派です。
サリーズ・カレーの特徴は、ふんだんに使用した県産食材のバランスのよさ。かたまりで入っているのは、ほろほろと口の中で崩れるほど柔らかい県産の豚トロ。赤ワインで煮込まれたトマトとたっぷりのタマネギをベースに、すり下ろしたリンゴなどのフルーツが甘みを引き出しています。
商品名の由来は奈良の代名詞でもある鹿と、ご当地カレーの意味をかけて『奈良鹿ないカレー』と名付けたそうで、シリーズ化も着々と進行中の模様です。
■総評
カレーの味 ★★★★★
辛さ ★★☆☆☆
本格度 ★★★★☆
パッケージのキャラクター『ぶ~しか』は、おそらく、豚と鹿の掛け合わせでしょうか?
「鹿・シカ・ない奈良県」に、「奈良・鹿・ないカレー」というネーミングもキュート☆
なんだか「スキトキメトキス♪」(アニメ『さすがの猿飛』テーマソングで、1982年に発売された伊藤さやかの作品。昭和っ子なら誰でも知っている歌詞)な気分になるこのネーミングも幻想的だ。
「スキトキメトキス♪」とか口ずさむと、不思議とわけもなく飛田新地の残影がシンクロする。
……。
ご当地カレーにシンクロする残影すら奈良じゃない奈良鹿ないカレー……。
応援しています。